五線軌条

生活と芸術とか。

極夜抄(六)

人とお酒を呑むのはいつぶりだろう。感染防止策と深夜労働とで長らく飲み会というものをしていなかったのだが、昨晩は少人数かつ早い時間までという条件で、お酒の席をようやく行うことが出来た。

もともと大人数のお酒の席は苦手なので四人という人数はちょうど良い。かつてよく来ていた居酒屋の座敷に通してもらう。そうそう、この感じだ。ジョッキに入った冷えたビールはやはり美味い。

外部から招聘した講師の先生と院生三人という面々だ。その先生は幅広い知識と数多くの経験とに裏付けられたエピソードを切れ味の良い言い回しで話してくれる上、学生の話を拾って広げるのもお手の物という、なんとも話していて楽しい方だった。学問に限らず、ポップカルチャー、最近の流行、過去の思い出、趣味。密度の高い話がポンポンと飛び出した。最近正直気が滅入っていた私にとって、久々に誰かと長い時間、様々なトピックについて話せた時間だった。

聞いていて驚いたのはその貪欲ともいえる意欲だった。先生は現在スペイン語を勉強しているという。それのみならず、趣味で英語の本を一冊翻訳したり、流行りの音楽を聴いたり、Netflixを楽しんだりしているらしく、多くの分野で現役貫いているような、そんなエネルギーを感じた。これで(おそらく)私の3倍以上の時間を生きているのだから驚きだ。

比較するようなものでもないが、私は立ち止まってばっかりである。未来への不安と目先の生活の辛さを理由にして必要なことさえできていないのだから。ただ、この日はそれを悟って落ち込むよりも、むしろ「頑張ろう」と思えた。人との付き合いは得意な方ではないが、やはり生きた人間関係がどこか心の支えになる部分があるのだと、そう実感した。