五線軌条

生活と芸術とか。

極夜抄(二)

日曜日はラフマニノフの二番を聴きに行った。と、書いただけではピアノ協奏曲なのか交響曲なのか不明だが、今回は「どちらも」である。即ち前半にピアノ協奏曲の二番、後半に交響曲の二番を演奏するプログラムだったのである。

前者は私が失恋した時にちょうど聴いていたという意味で苦い思い出がある。西日の眩しい路線バスの車内、ちょうど第三楽章がいちばん盛り上がったところを聴いていた。その日時がすらすらと思い出せるほど、私の胸の奥底にはその時の記憶が刻まれている。

後者はというと、こちらは初めて演奏したシンフォニーという意味で記憶に残っている。もう五年も前になる。大学に入り、ろくに友達もいない私にオーケストラの楽しさを教えてくれた曲であり、そして練習のたびに人と話せるようになっていった思い出の曲でもある。ラフマニノフの二番のシンフォニーは、そんな寒いけれど暖かな五年前の冬の日々のことを、いつでも私に思い起こさせるのだ。

 

正直、好みの演奏ではなかった。テンポ設定やバランス、フレーズの歌わせ方に疑問を感じる点が多かったのだ。しかしラフマニノフの旋律というのは偉大なもので、それでもある程度は感動できてしまうのである。第一楽章、幾多もの波濤を乗り越えた先で叫ぶ勇壮なファンファーレ。第二楽章、トリオに現れる夢想的な行進曲。第三楽章、美しくも翳りのあるセレナーデ。第四楽章、第三楽章までの楽句をまとめて雪崩れ込むフィナーレ。全てのフレーズが懐かしい思い出と紐付けられて、自然に溜息が漏れてしまう。好きな曲は数多くあるが、この交響曲以上に思い出深い曲にはもう巡り会えないのかもしれない。