五線軌条

生活と芸術とか。

極夜抄 序

私は子どもの頃から本を読むのが好きだった。それ故、「自分で小説を書きたい」と思うのはまあ自然なことだろう。この10年で書き始めた物語は何本もあるが、完成させたものはほんの数本だ。これは、それぞれの小説が決して誰かに読んでもらうことを意図しているわけではないからである。謂わば自分の意欲を満たすため、そして日々考えていることと経験したことを昇華するために行っているのだ。

ところで、私は高校時代と大学時代の数ヶ月、手記をつけていた。「日記」と呼ばないのは毎日書いていたわけでは無いからである。その手記も書かなくなって久しい。

そこで思ったのだ。自らの思考と経験とを落とし込むための小説と、毎日の記録としての手記とを「私小説」という形でここに残しておこう、と。幸い見る人もほぼいないのだから恥は捨てられる。タイトルは私の3番目の手記につけた名前——そう、私は格好をつけたがるのが好きなのだ——から取るとしよう。小説であるならば一応完成させねばならないが、それは修士課程の修了までとしよう。

それでは、一昨日のことから書くとしようか。